採用改善が続かない原因は、施策やKPIの不足だけではありません。「誰が課題を特定し、誰が変更を決め、いつまでに誰が実行するか」が曖昧なまま、人事だけで進めていることが大きな原因です。
解決の骨子は三つです。採用責任者を一人に定めること。人事・現場・経営の役割を、RACI(業務ごとに、実行する人・最終責任者・事前に相談する相手・結果を共有する相手を決める方法)で整理すること。週次会議を進捗報告ではなく、意思決定の場に変えることです。
本記事では、採用責任者・人事・現場・経営の4者の責任分担、30分の会議設計、課題台帳、見直しの周期、例外時の承認ルール、4週間で始める手順まで、すぐに導入できる形で解説します。
内製・外注・ハイブリッドのどれで進めるかという体制の選び方は、会議体やRACIを設計する前に確認したい論点です。「採用改善の体制構築」で整理しています。
採用改善を「人事の業務」から部門横断のプロジェクトに変える
採用改善は、人事が求人媒体や選考フローを調整するだけでは完結しません。求める人材と現場業務をつなぐ現場責任者、予算や処遇を決める経営、進行を管理する人事が、同じ目標に向かって動く部門横断プロジェクトです。
厚生労働省が2026年7月31日に公表した一般職業紹介状況によると、2026年6月の有効求人倍率は1.18倍、新規求人倍率は2.16倍でした。この数字だけで自社の採用の難しさは決まりませんが、募集を出せば自動的に採用できる状況ではありません。限られた候補者との接点を、要件、選考、動機形成、意思決定の各段階で改善する必要があり、そのために部署をまたぐ体制が求められます。
プロジェクト化する際は、最初に次の3点を固定します。
- 目的:どの職種を、いつまでに、どの状態まで改善するか
- 責任:最終結果に責任を持つ人と、各施策を実行する人
- 運用:どの頻度で数字を見て、誰が変更を決めるか
最初の「目的」は、「応募数を増やす」だけでは狭すぎます。たとえば「営業職2名の採用に向け、書類選考の停滞と一次面接後の辞退を改善する」のように、採用目標と改善対象を一続きで定義しましょう。
採用責任者・人事・現場・経営は、それぞれ何を決めるのか
採用改善では、全員が関与していても、全員が責任者ではありません。まず、4者それぞれの責任と、決めること、やらないことを表で確認します。
| 役割 | 主な責任 | 決めること | やらないこと |
|---|---|---|---|
| 採用責任者 | 採用目標と改善全体の結果責任 | 優先課題、施策の採否、担当、期限 | すべての実務を一人で抱える |
| 人事・採用担当 | データ集約とプロジェクト進行 | 会議準備、候補者対応、媒体・工程の改善案 | 現場要件や経営判断を独断で確定する |
| 現場責任者・面接官 | 人材要件と見極めの妥当性 | 必須要件、評価基準、面接評価、受け入れ条件 | 採用不振を人事だけの責任にする |
| 経営・部門長 | 事業優先度と資源配分 | 採用枠、予算、処遇、重要な例外 | 週次の細かな運用へ常時介入する |

表のとおり、人事は進行、現場は要件と見極め、経営は資源配分を担い、採用責任者が全体の結果責任を持ちます。「やらないこと」の列は、役割の線引きを示しています。一人で抱え込むことも、他の役割の判断を独断で確定することも、責任を人事だけに押し付けることも避けます。
ただし、全員が少しずつ責任を持つ形では、判断待ちが起きやすくなります。そこで、業務ごとの関わり方を「結果責任」「実行」「専門的な助言」「情報共有」の4種類に分けます。この4種類を整理する方法がRACIです。Rは実行担当、Aは最終責任者、Cは事前に相談する相手、Iは結果を共有する相手を指します。重要なのは、一つの業務にAを原則一人だけ置くことです。なお、ここでの「4者」は人の役割、「4種類」は関わり方を指し、別のものです。
採用責任者は、人事責任者とは限りません。事業部採用であれば部門長がAとなり、人事がRとして進行する形もあります。誰をAにするかは、採用結果に対して資源を動かし、部門間の対立を解消できるかで判断します。
採用改善のRACIは、意思決定が起きる業務ごとに作る
役職ごとの一般論だけでは、実務で迷いが残ります。そこで、求人要件、候補者を集める母集団形成、選考、オファー、振り返りなど、意思決定が発生する業務単位でRACIを作成します。
| 採用改善の業務 | 採用責任者 | 人事 | 現場 | 経営・部門長 |
|---|---|---|---|---|
| 採用目標・期限の確定 | A | R | C | C/A※ |
| 人材要件・評価基準の定義 | A | R | R | I |
| 求人媒体・紹介会社の運用 | A | R | C | I |
| 書類・面接評価 | I | R | A/R | I |
| 歩留まり・辞退理由の分析 | A | R | C | I |
| 面接内容・選考工程の変更 | A | R | R | I |
| 年収・採用予算の例外承認 | C | R | C | A |
| 入社後の活躍・定着確認 | A | R | R | I |
※全社の採用計画や重要ポジションでは、経営・部門長をAとする場合があります。
表は、行ごとにAを探して読みます。多くの業務では採用責任者がAですが、書類・面接評価は現場が、年収・採用予算の例外承認は経営・部門長がAです。なお、表中の「歩留まり」は、応募から各選考段階に進む割合のことです。
RACI表ができたら、各行で次の5点を確認します。
- Aが一人に決まっているか
- Rに実行時間と必要な権限があるか
- Cが多すぎて全員承認になっていないか
- Iへの共有方法が決まっているか
- 採用の公平性や法令上の確認責任が抜けていないか
5点目の公平性については、厚生労働省が公正な採用選考の基本として、応募者の適性・能力に基づく基準を示しています。面接評価の変更を現場だけの判断にせず、人事をRまたはCに置き、不適切な質問や属人的な基準が入り込まないよう統制しましょう。
週次会議は30分で、確認・判断・割り当てまで終える
週次会議は進捗の読み上げではなく、改善判断を行う場です。数字や個別候補者の状況は事前に共有し、会議では差分、原因仮説、決めるべきことに時間を使います。
会議の進め方について、会議研究を紹介する米国心理学会の記事は、目的の明確化、事前アジェンダ、適切な参加者、終了時の要約と次の行動を、会議改善の重要点として整理しています。採用会議でも同じ原則が使えると考えます。30分の配分は次のとおりです。
| 時間 | 議題 | 会議で残すもの |
|---|---|---|
| 0〜5分 | 目標と前回アクションの確認 | 未完了事項と阻害要因 |
| 5〜12分 | KPIの差分確認 | 目標との差が大きい工程 |
| 12〜22分 | 重要課題を最大2件検討 | 原因仮説と採用する施策 |
| 22〜27分 | 例外・承認事項 | 決定者、決定内容、理由 |
| 27〜30分 | 担当・期限・確認方法 | アクション一覧 |

進捗は事前に共有しておき、会議では12〜22分の枠で重要課題を最大2件に絞って検討します。終了前の3分で、施策、担当者、期限を確定します。
会議参加者は、採用責任者、人事担当、対象職種の現場責任者を基本とします。経営は、予算、採用枠、処遇、組織変更など、経営判断が必要な回に参加します。常時参加させると説明時間が増えやすいため、Iとして議事録を共有する運用でも構いません。
会議で扱うKPIは、改善対象に絞ります。応募数、書類通過率、面接設定率、選考期間、辞退率などを全部同じ重さで議論するのではなく、「今週決めること」に直結する2〜4指標を選びます。KPIの詳しい定義や必要応募数の逆算は別途行い、この会議では変化と判断に集中します。
会議で扱う課題が面接設定後の辞退であれば、「面接辞退を減らす方法」で、連絡速度・日程調整・候補者体験に分けて診断できます。
課題台帳で、事実・仮説・施策・責任者を一行でつなぐ
改善会議を実行につなげるには、議事録とは別に課題台帳が必要です。議事録は会話の記録になりやすい一方、課題台帳は未解決事項と次の行動を追跡するために使います。項目と記入例は次のとおりです。
| 項目 | 記入内容 | 例 |
|---|---|---|
| 事実 | 数字や観察で確認できた状態 | 一次面接後の辞退が直近4週間で増加 |
| 原因仮説 | 事実と区別した見立て | 面接から結果連絡までの待ち時間が長い |
| 施策 | 一定期間試す変更 | 面接翌営業日までに合否連絡 |
| 成功指標 | 効果の確認方法 | 結果連絡時間、一次面接後辞退率 |
| R/A | 実行担当と最終責任者 | 人事R、採用責任者A |
| 期限 | 実行日と検証日 | 9月1日開始、9月29日検証 |
| 状態 | 未着手・進行中・完了・保留 | 進行中 |

表の例では、一次面接後の辞退の増加という事実を起点に、結果連絡の待ち時間が長いという原因仮説を立てています。そのうえで、合否連絡を面接翌営業日までに行う施策を、9月1日開始、9月29日検証と期限を区切って試す流れです。このように、確認できた事実と原因仮説を分け、施策の担当・期限・検証日まで一行でつなぎます。
一つの課題に複数施策を詰め込むと、何が効いたか分からなくなります。緊急性がない限り、変更は検証できる単位に分けます。また、「候補者の質が低い」のような評価語ではなく、「必須要件を満たす応募が20件中4件」のように観察可能な事実へ置き換えます。
内定辞退が改善テーマになった場合は、「内定承諾率を上げる方法」で、辞退理由・オファー面談・フォローを原因別に整理できます。
週次・月次・四半期で、見直す内容を分ける
すべてを週次会議で決めると、短期の数字に振り回されます。そこで、週次は実行、月次は施策評価、四半期は前提の見直しと、周期ごとに役割を分けます。
| 頻度 | 主な目的 | 主な判断 |
|---|---|---|
| 週次 | 停滞の除去と実行管理 | 担当変更、連絡期限、面接枠、短期施策 |
| 月次 | 数字と施策の効果検証 | 媒体配分、選考工程、評価基準、優先順位 |
| 四半期 | 事業前提と体制の見直し | 採用目標、要件、予算、内製・外注、RACI |

表のとおり、週次は担当変更や連絡期限など実行上の停滞、月次は媒体配分や選考工程など施策の効果、四半期は採用目標・予算・体制といった前提を扱います。
週次で数字が悪化しても、母数が少なければ偶然の変動かもしれません。事実、仮説、意思決定を分け、施策の検証期間を先に決めておきましょう。月次では単月だけでなく、職種別・流入経路別・選考段階別に同じ条件で比較します。
四半期には「現在のRACIが機能しているか」も確認します。Aが会議に出られない、Rに権限がない、Cへの確認が多すぎる場合は、担当者の努力ではなく体制の問題です。
判断が止まりやすい例外は、承認ルールを先に決めておく
採用改善では、通常のフローよりも例外処理で時間を失います。年収上限、必須要件、追加媒体、選考省略など、起こりやすい例外は、決定者と回答期限を先に決めておきます。次の表は、例外ごとの決定者と、上位承認に回す条件の整理例です。
| 例外 | 通常の決定者 | 上位承認が必要な条件 | 回答期限の目安 |
|---|---|---|---|
| 年収レンジの変更 | 採用責任者 | 人件費予算・等級を超える | 2営業日以内 |
| 必須要件の緩和 | 現場責任者+採用責任者 | 品質・資格・法令に影響 | 週次会議または翌営業日 |
| 有料媒体の追加 | 採用責任者 | 予算枠を超える | 3営業日以内 |
| 選考工程の短縮 | 採用責任者 | 公平性・承認規程に影響 | 候補者対応前 |
| 内定期限の延長 | 採用責任者 | 入社日・配属計画に影響 | 当日中 |
ここまでの役割分担はRACIで整理できますが、意見が割れやすい重要判断には別の枠組みも使えます。AtlassianはDACIを、意思決定におけるDriver、Approver、Contributors、Informedを分ける方法として紹介しています。RACIが日常業務の責任整理に向くのに対し、DACIでは決定を進めるDriverと最終承認者Approverを明示するため、停滞を防ぎやすくなると考えます。
採用改善の体制は、5ステップで立ち上げる
最初から大規模な委員会を作る必要はありません。対象職種を一つ選び、4週間の小さな改善プロジェクトから始めます。対象を絞り、責任者を決めてから表と会議を整える順に進めると、会議が始まる時点で「誰が何を決めるか」が定まっています。
- 対象職種と改善課題を一つ決める
- 採用責任者Aを一人決める
- 主要業務7〜10項目のRACIを作る
- 週次30分の会議と課題台帳を開始する
- 4週間後に施策結果と体制の両方を振り返る
立ち上げ時の確認項目は次のとおりです。
- 採用目標と改善対象が一文で説明できる
- 各業務のAが原則一人になっている
- 人事と現場の実行時間が確保されている
- 会議前に数字を更新する担当がいる
- 会議で扱う課題を最大2件に絞っている
- 決定事項に担当者と期限が付いている
- 年収や要件変更の例外承認先が決まっている
- 公正な採用選考を確認する担当がいる
- 入社後の活躍・定着を現場と振り返る日が決まっている
- 4週間後にRACI自体を見直す予定がある
体制の成否は、会議を開催した回数ではなく、必要な判断が期限内に行われ、改善施策が実行・検証されたかで評価します。
まとめ:まず4週間、一つの職種で試す
採用改善を継続するには、人事だけに任せず、採用責任者・人事・現場・経営を部門横断プロジェクトとしてつなぐ必要があります。採用責任者を一人に定め、業務単位のRACI、週次30分の意思決定会議、課題台帳、例外承認ルールを整えることが基本です。
最初の一歩は、一つの職種を対象に、4週間だけ運用することです。毎週、事実から優先課題を一つか二つ選び、担当・期限・成功指標を決めます。4週間後に施策の成果と体制の詰まりを分けて振り返れば、自社に合う採用改善の運用モデルへ更新できます。
参考文献・データ元
この記事で参照した情報を確認できます。
- 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年6月分)について」(2026年7月31日公開、2026年6月対象)
- 厚生労働省「公正な採用選考の基本」(閲覧日:2026年8月24日)
- Asana「RACI チャートとは?役割・作り方・実例をわかりやすく解説」(2026年更新)
- Atlassian Team Playbook「DACI: A Decision-Making Framework」(閲覧日:2026年8月24日)
- American Psychological Association「Stop wasting time: Keys to great meetings」(2016年12月)
- McLaney et al.「Systematic review of the characteristics of brief team interventions to clarify roles and improve functioning in healthcare teams」(PLOS ONE、2020年)DOI: 10.1371/journal.pone.0234416
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