採用改善の提案書が複数そろうと、次に迷うのは「どこへ発注するか」です。提案ごとに得意領域や料金体系、資料の見せ方が違うため、そのまま横並びにすると、価格や実績のように目立つ項目だけで決めてしまいがちです。
結論として、受け取った提案は、自社側で用意した共通の評価表に変換して比較します。評価軸は、職種別KPI、支援範囲、体制、データ・権限、費用・契約条件、候補者接点の6つです。この記事では、100点の採点例と最終面談の質問を使って、自社の採用課題に合う発注先を絞り込む手順を説明します。
本記事は提案の比較に絞っています。内製か外注かといった上位の全体設計から確認したい場合は、採用改善の内製・外注・ハイブリッドの判断基準も参照してください。
採用改善支援の提案は「100点の共通評価表」にそろえて比較する
提案書は、各社の資料構成のまま読み比べるのではなく、自社の評価軸に変換して比較するのが基本です。
たとえば、提案Aは採用媒体の運用実績を強調し、提案Bは採用サイト改善を前面に出し、提案Cは選考オペレーションやデータ分析を詳しく説明している、といった違いが出ます。この状態でページ数や説明量を比べても、同じものを比較したことにはなりません。
そこで、受領した全提案を次の100点表に転記します。配点は一例なので、自社の課題に応じて調整してください。なお、表の「データ・権限・安全管理」にあるATSは、応募者管理システムのことです。
| 評価項目 | 配点例 | 主な確認内容 |
|---|---|---|
| 職種別KPIとの整合 | 25点 | 応募、選考、採用のどこを改善する提案か |
| 支援範囲 | 20点 | 媒体、採用サイト、口コミ、選考、分析のどこまで対応するか |
| 体制・役割分担 | 15点 | 責任者、実務担当、代替要員、自社側の必要工数 |
| データ・権限・安全管理 | 15点 | ATS、媒体、応募者情報、アカウント、レポートの扱い |
| 費用・契約条件 | 15点 | 総額、追加費用、最低契約期間、解約・変更条件 |
| 候補者接点・改善設計 | 10点 | 求職者が見る情報と選考体験まで改善対象になっているか |
| 合計 | 100点 | 同じ基準で全提案を採点 |
この表の点数は、高得点の会社へ自動的に発注するためのものではありません。比較対象を同じ土俵に載せるために使います。
例えば80点以上を有力候補、65〜79点を追加確認、64点以下を再検討とするなど、判断のルールを社内で先に決めておくと、担当者ごとの好みで評価がぶれにくくなります。
さらに、点数とは別に「必須条件」を設けます。必要な支援範囲が含まれない、データの返却条件が不明、重要な権限を支援会社名義でしか持てないなど、契約後の運用に重大な影響がある項目は、総合点が高くても保留にします。
提案を受け取る前の段階で、前提条件がそろっていない場合は、採用改善支援を外注するための要件定義で職種別KPI・支援範囲・役割分担を先に整理してください。
次の節からは、表の項目を順に見ていきます。最初は、配点が最も大きい職種別KPIです。
まず、提案が「どの職種のどのKPI」を改善するのかを確認する
提案比較で最優先するのは、各社が何をしてくれるかではなく、「どの職種の、どの採用指標を改善する提案か」です。
同じ採用施策でも、職種によって評価は変わります。たとえば、営業職は応募数が足りない一方、エンジニア職は応募は来るが書類通過率が低い、という状態なら、見るべき施策も指標も別になります。
そのため、職種ごとに、現在値、目標、ボトルネック、提案内の施策を1行で対応させます。次の表は、課題と優先KPIの整理例です。
| 職種 | 現在の主課題 | 優先KPI | 提案で見るべき内容 |
|---|---|---|---|
| 営業 | 応募母数が不足 | 有効応募数 | 媒体、求人内容、訴求、スカウト |
| エンジニア | 書類通過が低い | 書類通過率 | 要件整理、求人票、スカウト対象、選考基準 |
| 店舗職 | 面接辞退が多い | 面接実施率 | 応募後連絡、日程調整、候補者対応 |
| 管理職 | 内定承諾が弱い | 内定承諾率 | 企業情報、魅力整理、面談、選考中の情報提供 |
KPIの数え方は会社や提案書によって異なることがあります。たとえば内定承諾率なら、内定を出した人数に対する承諾した人数の割合のように、何を分母にするかを確認してから比べます。

支援内容の多さではなく、職種ごとの課題とKPIに提案施策がつながっているかを確認します。
提案書に「応募数を増やす」「採用1人あたりの費用(採用単価)を下げる」と目標が書かれているだけでは、評価は上がりません。どの職種で、どの指標を、どの施策によって変えるのか。そのつながりが書かれているかを見ます。
最終面談では、「この職種の現状数値を見たとき、最初の30〜60日で何を確認し、どのKPIを先行指標として追いますか」と聞くと、提案が自社の課題まで踏み込んだものかを確認しやすくなります。
支援範囲は媒体運用だけでなく「候補者が見る接点」まで確認する
ここでは、表の「支援範囲」と「候補者接点・改善設計」を合わせて確認します。見るのは、企業側の作業範囲だけでなく、求職者が応募の前後に触れる情報まで含めた範囲です。
求人媒体だけを改善しても、採用サイト、企業検索、口コミ、選考中の案内などで不安が残れば、改善が採用活動の一部にとどまる可能性があります。

採用改善の提案は、求人媒体だけでなく候補者が応募前後に接触する情報全体で支援範囲を確認します。
候補者が公式情報以外も見ていることは、調査からも分かります。マイナビの2026年卒学生に関する調査では、70.6%が企業公式情報以外の口コミサイトやSNS投稿などの非公式情報を確認していました。また、非公式情報を参考にした学生の情報源では「就活口コミサイト」が83.5%と最も高い結果でした。
新卒向け調査ではありますが、候補者が企業の発信する求人情報だけでなく、複数の情報源を横断して企業を判断することを考える材料になります。
採用サイトについては、2026年に公表された海外研究があります。イタリアの大学院生435人を対象に企業サイト閲覧前後の組織魅力度と応募意向を調査し、Webサイトの見え方が組織魅力度を介して応募意向に関係する結果が示されています。対象国・対象者が日本企業の採用と異なるため、そのまま一般化はできません。ただし、採用サイトも候補者との重要な接点として評価する材料にはなります。
こうした接点のどこまでを支援会社が担うのかは、提案書ごとに違います。提案書の範囲を「対応する・助言のみ・対象外」の3段階で整理すると比較しやすくなります。次の表で、提案ごとに各行へ印を付けてください。
| 候補者接点・業務 | 対応する | 助言のみ | 対象外 |
|---|---|---|---|
| 求人媒体・求人票 | |||
| ダイレクトスカウト | |||
| 採用サイト・職種ページ | |||
| 企業名検索・口コミの確認 | |||
| 応募後の連絡・日程調整 | |||
| 面接・選考設計 | |||
| 内定後フォロー | |||
| 採用データ分析・改善会議 |
「対象外」の行は、自社で補うのか、別の手段を探すのかを決める材料になります。
求人原稿や採用情報の更新は、表示のルールにも関わります。厚生労働省は、インターネットやSNSを含む募集情報について、虚偽や誤解を生じさせる表示を禁止し、募集主の名称、住所、連絡先、業務内容、就業場所、賃金などの表示を求めています。
支援会社が求人原稿や採用情報の更新まで担う場合は、「誰が内容を確認し、変更を承認し、最新状態を保つか」まで提案に含まれているか確認してください。
担当体制は「有名な会社か」ではなく実際に動く人と役割で比較する
体制を比べるときは、提案時の責任者だけでなく、契約後に日常業務を担当する人まで確認します。
特に採用改善は、人事、現場責任者、経営、制作、広告運用など複数の関係者が関わるため、支援会社側の役割分担が曖昧だと、確認待ちや責任の空白が生じます。
最低限、次の5点をそろえて比較します。
- プロジェクト責任者は誰か
- 日常の実務担当者は誰か
- 職種別の専門担当者は入るか
- 担当者不在時の代替体制はあるか
- 自社側に週・月どの程度の工数が必要か
もう一つ、選考支援の内容は「代行」という言葉だけで判断しないでください。
厚生労働省は、募集情報の提供と職業紹介を区分しており、事業者が求人者に代わって候補者を選定したり、求人者の判断によらず選考に関するメール返信などを行ったりする実態では、職業紹介に該当する例を示しています。
提案に候補者の選定やあっせんに近い業務が含まれる場合は、実際の業務内容と必要な許可・体制を確認してください。
データ・アカウントは「誰が持ち、契約終了後に何が残るか」で比較する
データの扱いは、提案比較の後回しにしない項目です。
採用支援では、応募者の氏名・連絡先・職歴、ATSの選考履歴、媒体アカウント、スカウト履歴、分析レポートなどを外部会社が扱うことがあります。
個人情報保護委員会のガイドラインは、個人データの取扱いを委託する場合、委託元に委託先への必要かつ適切な監督を求めています。取扱状況の把握方法はデータの内容や規模に応じて適切に設定すればよく、立入検査だけが唯一の方法ではないとされています。
比較するときは、次の項目を文書で確認します。
- ATS・求人媒体・解析ツールの契約名義
- 管理者権限を自社でも保持できるか
- 応募者データの保存場所と利用目的
- 再委託先の有無と管理方法
- アクセス権限の付与・削除ルール
- インシデント発生時の連絡方法
- 契約終了時のデータ返却・削除
- レポートの元データを自社が取得できるか

採用支援では成果物だけでなく、アカウント権限や採用データを契約終了後も自社で利用できるか確認します。
特に「支援会社を変更したら過去データが見られない」「媒体アカウントを作り直す必要がある」といった状態は、次の改善を難しくします。成果物だけでなく、採用運用のデータ資産が自社に残る設計かを見てください。
費用は月額だけでなく「同じ採用条件の総額」に直して比較する
料金体系が異なる提案は、同じ契約期間・採用人数・対象職種を前提に、比較用総額へ換算します。月額が安く見えても、初期費用、媒体運用手数料、制作費、オプション、成果報酬が別になっている場合があるためです。
比較用総額は、例えば次のように整理できます。
比較用総額 = 初期費用 + 月額費用×契約月数 + 必須オプション + 運用手数料 + 想定成果報酬
このとき、求人媒体へ直接支払う広告費と、支援会社へ支払う業務委託費は分けて記録します。採用サイト制作や撮影などの一時費用が含まれる場合も、継続運用費と分けます。
さらに、「何をすると追加費用になるか」を確認します。職種追加、求人原稿追加、スカウト送信数の増加、定例会追加、レポート追加、採用サイト修正、口コミ確認、選考支援など、契約後に発生しやすい項目を先に洗い出すと、提案時の安さだけで判断しにくくなります。
費用対効果を見るときは、支援会社ごとに異なる採用見込み人数をそのまま使うのではなく、自社側で同じ採用計画を置いて比較します。前提が違う数字を並べると、期待値の高い提案ほど有利に見えてしまうためです。
最終面談では12の質問で「実行できる提案か」を確認する
書面で上位2〜3社に絞ったら、最終面談では説明のうまさではなく、実行条件を確認します。次の12問を同じ順番で聞くと比較しやすくなります。
- 最優先で改善すべき職種とKPIをどう見ていますか。
- そのKPIが悪い原因を、最初にどう切り分けますか。
- 最初の30〜60日で何を実施しますか。
- 媒体、採用サイト、口コミ、選考のうち、どこまで実務対応しますか。
- 対象外の領域で問題を見つけた場合、どこまで助言しますか。
- 実務担当者と責任者は誰ですか。
- 自社側に必要な会議・確認・制作工数はどれくらいですか。
- KPIレポートは集計値だけでなく元データまで確認できますか。
- ATS・媒体・応募者データの権限は誰が持ちますか。
- 見積金額以外に発生し得る費用は何ですか。
- KPIが想定どおり改善しない場合、何を見直しますか。
- 契約終了時に自社へ残るデータ、文書、運用ルールは何ですか。
回答は議事録にし、100点評価表へ反映します。「できます」「対応可能です」だけではなく、担当者、頻度、成果物、期限、条件まで具体化されている回答を高く評価します。
発注先は「得意な会社」ではなく「自社課題に最も適合する提案」で決める
採用改善支援の発注先を選ぶときは、知名度、実績社数、価格だけでなく、自社の職種別課題と提案内容がつながっているかを見る必要があります。
たとえば、応募数が課題なのに選考代行が厚い提案や、口コミや採用サイトが候補者の不安要因になっているのに媒体運用だけの提案は、支援会社に強みがあっても、自社課題との適合度は高くありません。
最終判断では、次の順で確認すると整理しやすくなります。

発注先は点数だけで決めず、必須条件、不明点、費用条件をそろえたうえで、契約後の検証方法まで決めます。
必須条件を満たす → 100点表で比較する → 不明点を最終面談で解消する → 費用を同一条件へ換算する → 契約後90日程度の初期検証方法を決める
発注前に「何をもって支援が順調と判断するか」まで合意できれば、契約後の定例会も活動報告だけで終わりにくくなります。
複数社から受け取った提案を自社の採用課題に照らして整理しきれない場合は、第三者視点で評価軸を確認する無料相談を活用する方法もあります。
まとめ
採用改善支援の提案書は、各社の資料をそのまま比較するのではなく、自社側で共通の評価軸へ変換して判断します。
評価軸は、職種別KPI、支援範囲、担当体制、データ・権限、費用・契約条件、候補者接点の6項目です。
特に、受領済み提案の比較では「何をしてくれる会社か」よりも、「自社のどの職種の、どの採用課題を、誰が、どのデータを使い、いくらで改善するのか」まで一つにつながっているかが分かれ目になります。
まずは手元の提案を100点表に転記し、必須条件に当たる項目がないかを確認しましょう。そのうえで、最終面談の共通質問を使い、発注後に検証できる提案を選んでください。
参考文献・データ元
この記事で参照した情報を確認できます。
・「公式情報だけでは足りない?学生が非公式情報に求める“リアル”とは~2026年卒新卒採用の振り返り~」
発表元:マイナビキャリアリサーチLab
公開日:2025年9月26日
対象:2026年卒学生の就職活動・情報収集行動
使用内容:非公式情報の確認率70.6%、非公式情報利用者における就活口コミサイト利用83.5%
・「E-Recruitment, from Website Aesthetics to Application Intentions: The Roles of Organizational Attractiveness and the Corporate Reputation」
発表元:Corporate Reputation Review / Springer Nature
公開日:2026年5月13日
対象:イタリアの大学院生435人、企業サイト5社
使用内容:企業サイト閲覧と組織魅力度、応募意向に関する研究
DOI:10.1057/s41299-026-00258-5
・「募集情報等提供と職業紹介の区分について」
発表元:厚生労働省
使用内容:募集情報等提供と職業紹介の業務範囲の確認
・「労働者の募集広告の表示について」
発表元:厚生労働省
使用内容:募集情報の表示、虚偽・誤解を生じさせる表示に関する注意事項
・「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」およびQ&A
発表元:個人情報保護委員会
使用内容:個人データを委託する場合の委託先監督、取扱状況の把握
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