「金融機関のオウンドメディアは、何をもって成功と言えるのか」「銀行・保険・証券で、やり方はどう違うのか」。社内で立ち上げや見直しを任された担当者が、最初にぶつかる疑問です。 結論から言うと、公開されている事例を見ると、成功の物差しはメディアの目的ごとに違います。銀行は顧客との接点づくり、保険は潜在層へのブランド想起、証券は投資の入口から日々の情報収集までを受け止める場づくりが中心でした。事例で確認できた指標も、ユーザー数や検索順位、PV(ページの閲覧数)など、事例ごとに異なります。 この記事では、公開情報で確認できる国内の事例を業態別に整理し、比較して見えた違いと、金融ならではの信頼の守り方、自社で始める前の確認項目をまとめます。事例の数値は、いずれも掲載時点のものです。成果の数値が公開されているのは銀行の2例で、保険と証券は取り組みの内容が分かる事例です。
金融のオウンドメディアは、目的ごとに成功の測り方が変わる
成功の測り方は、目的を決めたあとに、読者の段階と指標を順に決めると整理しやすくなります。

オウンドメディアとは、企業が自社で持つサイトやブログなどの発信の場を指します。金融機関の場合、商品の説明ページだけでは届かない「お金に関する知識」や「暮らしの悩みへの答え」を発信し、検討の手前から接点を持つために使われる手段のひとつです。
ただし、金融の情報は、読み手の生活に大きな影響を与えます。Googleは、人の健康や安全、経済的安定に大きく影響しうる話題を「Your Money or Your Life(YMYL)」と呼び、こうした話題では、経験・専門性・権威性・信頼性を意味するE-E-A-Tに優れたコンテンツを特に重視すると説明しています。E-E-A-T自体がランキングに直接影響するわけではありませんが、中でも信頼性が最も重要とされています。
そのため、金融のオウンドメディアでは、記事が増えたかどうかや、アクセスが伸びたかどうかだけで成否を判断しにくくなります。誰に、どの段階で接点を持ち、その後どんな行動につなげたいのか。目的を先に決めておかないと、事例の数字を見ても、自社に当てはまるかどうかが分かりません。目的の決め方は、メディア戦略・コンテンツ企画の進め方で整理しています。
銀行・保険・証券の事例|公開情報で確認できる取り組み
まず、公開情報で内容を確認できた事例を、業態別に見ます。成果の数値には、制作を支援した会社の事例ページに基づくものがあり、金融機関自身が発表した数字ではありません。いずれも掲載時点の数値で、現在の状況とは異なる可能性があります。
銀行|顧客との接点をつくる
銀行の事例では、顧客との接点づくりを目的にしたメディアが見られました。
山陰合同銀行の「ごうぎんなび」は、働く世代のお客様に向けた新しい情報提供の場として立ち上げられた、会員向けのサイトです。導入時の担当はデジタル推進部の2名で、2019年5月から外部の支援を受けてコンテンツ制作を始め、2020年5月までに9記事を公開しています。
制作を支援した会社の事例ページによると、月間ユーザー数は導入後に4倍まで成長し、公開した9記事はすべて検索順位が20位以内、うち7記事は10位以内に入りました。ここで見ている指標は、ユーザー数と検索順位です。ただし、4倍が何と比べた数字なのか、いつ測ったのかは、事例ページからは分かりません。

第四北越銀行の「マネーまるわかり」は、地元の人と「一生のお付き合い」を続けるためのデジタル施策として運用されているメディアです。コンテンツは「借りる」「貯める・備える」「便利に使う」の3つのカテゴリーで構成され、地元新潟のお金に関する情報ニーズに応えることを重視しています。目的は、金融商品ですでにお付き合いのある地元の40代〜50代に加え、これからライフステージの変化を迎える20代〜30代との接点を、デジタル上でつくることです。SNS広告で将来の顧客候補との接点をつくり、その反応をもとにコンテンツを改善する運用も紹介されています。成果の数値は掲載されていません。
伊予銀行の「iyomemo」は、2016年7月に開設されたメディアです。目的は伊予銀行とのタッチポイント(顧客との接点)をつくることで、主にPV数を指標としています。運用はビジネスマーケティング部の3人で、企画は社内で立て、原稿の作成は記事制作会社に任せる体制です。2023年4月時点の情報では、記事数は約400本、更新は週2本で、月間約35万PVとされています。
保険|検討の手前の潜在層に、ブランドを思い出してもらう
保険などの金融商品は、契約までにじっくり比較検討される傾向があります。そのため、継続的に情報を届けるオウンドメディアと相性がよいとされ、仕組みが複雑で理解に時間がかかることも理由のひとつとされています。
代表例として挙げられるのが、ライフネット生命の「ライフネットジャーナル」です。ここで紹介する内容は、第三者による分析に基づくもので、ライフネット生命自身の発表ではありません。分析では、すでに自社サイトで集客できている顕在層ではなく、潜在層を狙っていることがうかがえ、狙いは自社のブランド想起と考えられると説明されています。カテゴリーは「人生」「お金」「健康」などで、配信は毎週火曜日と金曜日、1記事は3分程度で読める分量です。著名人へのインタビューで話題性を高め、20〜30代の子育て世代をメインの読者と見立てている点も特徴とされています。PVなどの成果数値は掲載されていません。
証券|投資の入口から日々の情報収集までを受け止める
証券会社のメディアは、投資を始めたい人から、すでに取引している人まで、幅広い読者に向けた入口を用意した構成が見られます。
楽天証券の「トウシル」は、日本株、投資信託、NISA、iDeCo、米国株など、商品別・テーマ別の記事カテゴリーを持つ投資情報メディアです。記事ごとに執筆者名を表示し、著者一覧のページも用意しています。サイト上には「本コンテンツは情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘する目的で、作成したものではありません。」という注記があります。
マネックス証券の「マネクリ」は、市況やマーケットの情報に加えて、「初心者」「ライフデザイン」といった入口を設けています。ライフデザインには、年金、老後資金・相続、介護、FIRE、保険、教育資金が並びます。投資の話題だけでなく、お金全般の悩みに対応する構成です。執筆者を掲載し、なりすましへの注意喚起も出しています。
両サイトのトップページでは、運営会社が金融商品取引業者として登録されていることも確認できます。一方で、PVや口座開設への貢献といった成果の数値は掲載されていないため、この記事では成果の比較は行いません。
今回の事例を比べると、目的・読者・運営体制が違う
ここまでの事例を、読者の状況と指標の観点で並べます。表の「公開情報から読み取れる狙い」の列は、公開情報をもとにした筆者の整理で、各社が公式に説明している内容ではありません。取り上げたのは公開情報で確認できた一部の事例で、大手銀行や大手保険会社の事例は含みません。業態全体の傾向ではなく、自社の運営を考える材料として読んでください。
| 業態 | 事例 | 主な読者の状況 | 公開情報から読み取れる狙い | 確認できた指標・体制 |
|---|---|---|---|---|
| 銀行 | ごうぎんなび | 働く世代の顧客 | 情報提供の場の整備 | 月間ユーザー数、検索順位、担当2名 |
| 銀行 | マネーまるわかり | 地元の40〜50代と20〜30代 | 長く付き合う関係づくり | 数値の記載なし、3カテゴリー |
| 銀行 | iyomemo | 読者像の記載なし | タッチポイントの創出 | PV数、月間約35万PV、3人運用 |
| 保険 | ライフネットジャーナル | 潜在層(分析での表現) | 潜在層の獲得とブランド想起 | 数値の記載なし、週2回配信 |
| 証券 | トウシル、マネクリ | 投資を始めたい人、取引中の人 | 投資の入口から情報収集まで受け止める | 数値の記載なし、執筆者を表示 |
この表から読み取れる違いは三つです。
一つ目は、指標が事例ごとにまちまちなことです。銀行の事例だけを見ても、ユーザー数と検索順位を見るところと、PV数を見るところに分かれていました。同じ業態でも、メディアの役割をどこに置くかで指標が変わります。他社の数字を横に並べて優劣をつけるのではなく、自社の役割に近い事例の指標を参考にするのが現実的です。別の業界の事例は、人材・採用業界のオウンドメディア成功事例で比較しています。
二つ目は、想定している読者の段階の違いです。銀行の事例のうち、マネーまるわかりは、すでに取引のある人と、これからライフステージが変わる若い世代の両方を対象にしていました。証券のメディアは、投資を始めたい人から取引中の人までを、入口を分けて受け止める構成です。保険の事例は、潜在層に向けた発信という見方が示されていました。読者がどの段階にいるかで、記事のテーマも、成果を見る期間も変わります。
三つ目は、運営体制です。ごうぎんなびが2名、iyomemoが3人と、少人数で運用している例がありました。ただし、どちらも企画や制作の一部を外部の会社と分担しています。少人数で続けるには、社内で決めることと、外に任せることの線引きが要ります。
金融ならではの信頼の守り方|監修・注記・表示のルール
金融のオウンドメディアは、記事の質に加えて、誰が出している情報なのかが読者に伝わることも求められます。公開事例から、押さえておきたい点が三つ見えます。
第一に、運営者と執筆者を示すことです。トウシルとマネクリは、運営する証券会社を明示し、執筆者を掲載しています。Googleが信頼性を重視していることからも、誰が責任を持って書いているのかを読者が確認できる状態は、基本の対応と言えます。ただし、執筆者の表示は、内容を誰が確認したかを示すものではありません。両サイトのトップページからは、監修者の扱いまでは分かりません。
第二に、情報提供と勧誘を区別して伝えることです。トウシルは、前述の注記で、投資の勧誘を目的とした内容ではないことを示しています。商品の案内と読み物の境目を、読者に分かる形にしておく考え方です。
第三に、表示や広告に関する決まりを事前に確認することです。たとえば証券分野では、日本証券業協会が「広告等に関する指針」を定めています。証券取引等監視委員会は、2014年6月27日の改正で、比較広告を行う場合の留意点とステルス・マーケティング(広告であることを隠した宣伝)への対応が盛り込まれたと伝えています。指針は改正されるため、現在の内容は最新の資料で確認する必要があります。銀行や保険の分野についても、当てはまる決まりを自社で確認することになります。記事を公開する前の確認の流れは、自社のコンプライアンス部門と相談して決めてください。

自社で始める前に確認したい六つの項目
事例を自社に当てはめるときは、次の六つを順に確認すると、判断がぶれにくくなります。
- 目的:新規の見込み客との接点づくり、既存顧客との関係づくり、ブランド想起のどれを主に狙うかを決める。
- 読者の段階:段階によってテーマも言葉も変わるため、検討前の人か、比較している人か、すでに取引している人かを決める。
- 指標:ユーザー数、検索順位、PV、記事ごとの読まれ方などから、目的に合う数字と、見る期間を決める。
- 体制と頻度:何人で週に何本出せるかと、企画・執筆・確認のうち外部に任せる範囲を決める。
- 信頼の見せ方:運営者、執筆者、監修の有無、情報提供であることの注記をどこに置くかを決める。
- 公開前の確認:表示や広告のルールの確認を、誰が、どの段階で行うかを決める。

制作と公開にかかる期間も、事前に見込んでおく必要があります。ごうぎんなびは、2019年5月に外部の支援を受けて制作を始め、2020年5月までに9記事を公開しました。この事例から分かるのは公開の実績で、制作に必要な期間や標準的な公開ペースまでは分かりません。成果が出るまでの期間も事例ページから読み取れないため、短期間の数字だけで成否を判断しない前提で、目標の置き方を決めておくと安心です。目標の置き方は、コンテンツマーケティングのKPI設計でも整理しています。
まとめ
公開されている事例では、メディアの目的も、確認できる指標も、事例ごとに違いました。自社で考えるなら、まず役割を決め、その役割に合う指標を選ぶと整理しやすくなります。顧客との接点づくりが役割なら、ごうぎんなびやiyomemoのように、ユーザー数や検索順位、PVなど「読まれたか」を測る指標から始められます。潜在層へのブランド想起や、投資の入口から日々の情報収集までを受け止める役割の場合は、短期の数字ではなく、読者の段階に合わせて見る期間を決めておく必要があります。
運営体制は、少人数でも続けられる線引きから決めるのが現実的です。ごうぎんなびは担当2名、iyomemoは3人で運用しており、どちらも企画や制作の一部を外部と分担していました。社内で決めること、外に任せることを、公開本数を決める前に分けておくと、運用が止まりにくくなります。
そのうえで、運営者や執筆者の示し方、情報提供であることの注記、表示ルールの確認を、公開前の流れに組み込んでください。金融の情報は読者の暮らしに影響するため、信頼性の確保は、記事を増やすことより先に考えるべき条件です。
参考文献・データ元
この記事で参照した情報を確認できます。
- Google検索セントラル「有用で信頼性の高い、ユーザー第一のコンテンツの作成」(最終更新 2026年10月7日) https://developers.google.com/search/docs/fundamentals/creating-helpful-content?hl=ja
- MIERUCA「金融オウンドメディア成功事例[山陰合同銀行]」(ページ表示 2020年6月23日) https://mieru-ca.com/case/g-navi/
- インフォバーン「オウンドメディア『マネーまるわかり』」(ページ表示 2020年7月1日) https://www.infobahn.co.jp/works/12380
- 宣伝会議「顧客ファーストな運用で『困ったら伊予銀行』のイメージ醸成」(2023年4月11日) https://www.sendenkaigi.com/marketing/media/kouhoukaigi/026256/
- キャククル「ライフネット生命(ライフネットジャーナルオンライン)の分析」(最終更新 2022年2月10日) https://www.shopowner-support.net/customer_attraction_information/online/ownedmedia/lifenet-seimei/
- キャククル「保険のオウンドメディアを成功に導くポイント」(最終更新 2026年3月17日) https://www.shopowner-support.net/attracting_customers/finance/insurance/insurance-media/
- 楽天証券「トウシル」 https://media.rakuten-sec.net/
- マネックス証券「マネクリ」 https://media.monex.co.jp/
- 証券取引等監視委員会「メールマガジン 第45号」(2014年8月1日) https://www.fsa.go.jp/sesc/message/20140801-1.html
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