「求人を出しても、会いたい人が応募してこない」。中途採用の母集団形成(選考に進む候補者との接点を作り、候補者の集まりをつくる取り組み)では、こうした行き詰まりが起こりがちです。 結論から言うと、応募を待てば出会える層(転職顕在層)と、こちらから接点を作らないと出会えない層(転職潜在層)で、使うチャネル(求人媒体や人材紹介などの採用経路)と見る指標を分けると設計しやすくなります。顕在層には求人広告や人材紹介のように「探している人に見つけてもらう」手段を、潜在層にはスカウトや発信のように「関心を持ってもらう」手段を割り当てます。 この記事では、総務省統計局と厚生労働省の公表データ、Sansan株式会社の調査、公開されている解説記事をもとに、層の見分け方、チャネルの割り当て、自社の組み合わせを決める手順を整理します。
顕在層は「行動している人」、潜在層は「良い機会があれば動く人」
2つの層は、転職への関心の強さではなく、具体的に行動しているかどうかで分けると整理しやすくなります。
採用・組織づくり向けの解説サイトは、転職潜在層を「今は積極的に転職活動をしていないものの、より良い条件や環境があれば転職を検討する可能性がある人材層」としています。顕在層には独立した定義文はなく、求人への応募や選考への参加など、具体的な行動を起こしているかどうかで区別しています。
人材サービス会社が運営する別の解説サイトも、顕在層を、転職サイトへの登録や応募など自ら行動を起こす層として説明しています。この記事でも、この行動の有無を基準に使います。
| 層 | 相手の状態 | 企業側の姿勢 |
|---|---|---|
| 転職顕在層 | 転職サイトへの登録や応募など、自分から動いている | 求人を載せて、見つけてもらう |
| 転職潜在層 | 今は活動していないが、良い条件や環境があれば検討する | 企業から接点を作り、関心を持ってもらう |
この表は、2つの解説記事の説明をもとにした、この記事の整理です。層の分け方は調査や記事によって異なります。固定した分類ではなく、チャネルを割り当てるための目安として使ってください。
潜在層の人数は、調査ごとに割合が大きく変わる

自社でAIを活用している企業に勤める581名への調査の結果です。日本の就業者全体の割合ではありません。
潜在層と顕在層の人数の見方は、調査ごとに差があります。
総務省統計局の労働力調査(詳細集計)2025年平均によると、就業者6820万人のうち、転職者は330万人で、1年前より1万人減りました(4年ぶりの減少)。一方、転職等希望者は1023万人で、1年前より23万人増えました(2年ぶりの増加)。統計上の転職者と転職等希望者は、別の区分です。転職等希望者の人数は、この記事で言う潜在層の人数を示すものではなく、人数の規模を知る参考として読んでください。
もう1つ、Sansan株式会社(名刺管理サービスの会社)が2026年5月12日に発表した「AI時代の転職・キャリアに関する実態調査」があります。調査対象は、自社でAIを活用している従業員数100名以上の企業に勤めるビジネスパーソン581名と採用担当者487名で、調査期間は2026年4月22日~24日、オンラインのアンケートです。
- 「転職に興味はあるものの、応募や面接などの具体的な活動には至っていない」転職潜在層:55.2%(321名)
- 「積極的に転職活動をしている」:7.6%
ほかの解説では、人材サービス会社の解説サイトが潜在層を「約7割」としています。この解説は調査を出典として示していますが、調査時期や対象者数の記載はなく、元の調査は確認できていません。割合は、調査の対象や、層を分ける設問によって変わります。自社が採りたい職種や地域の実際の割合は、これらの数字からは分かりません。
使える結論は、次の2点です。
- Sansanの調査では、積極的に活動している人(7.6%)より、関心はあっても動いていない人(55.2%)のほうが多い結果になっている。
- 特定の割合(「潜在層は6割」など)を、そのまま自社の計画に使わない。
チャネルは「待つ手段」と「接点を作る手段」に分ける
層ごとの割り当ては、次の表のように考えられます。顕在層向けの手段は、Sansanの調査が採用担当者への質問で挙げた従来の手段(求人広告、人材紹介会社、ダイレクトリクルーティングサービス)と、人材サービス会社の解説サイトの「求人広告を掲載して待つ姿勢でも出会える」という説明をもとにしています。潜在層向けの手段は、この2つの解説サイトが挙げるものをまとめています。どの調査も、これらの手段を顕在層向け・潜在層向けと区分して効果を比べたわけではなく、層への割り当てはこの記事の整理です。表の「先に見る指標の例」と「注意点」も、この記事の提案です。
| 層 | 主な手段 | 先に見る指標の例 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 顕在層 | 求人広告、人材紹介、ダイレクトリクルーティング(企業が候補者へ直接スカウトを送る方法) | 応募数、書類通過率 | 他社の求人と並べて比べられる前提で、仕事内容や条件を具体的に書く |
| 潜在層 | ダイレクトリクルーティング、リファラル採用(社員の紹介による採用)、SNS・オウンドメディアでの発信、Web広告、タレントプール(候補者の情報をためて継続的に連絡する方法)、メールマガジン | 返信数、面談の実施数、つながりの継続 | すぐに応募や選考へ誘導しない。応募数だけで効果を測らない |
ダイレクトリクルーティングは、表のとおり両方の層の手段として挙がっています。この記事の整理では、顕在層にはスカウトで応募を促す使い方、潜在層には関係づくりのきっかけとして使う使い方に分けて考え、同じ手段でも見る指標を変えます。スカウトの進め方は、ダイレクトリクルーティングの導入と運用で扱っています。
この割り当ては、各社の解説が示す手段を整理したものです。層ごとの採用1人あたりの費用や、どの手段が効くかの比較データは、今回確認できた範囲にはありません。
顕在層向けは、見比べられる前提で「判断材料」を揃える
顕在層は、転職サイトへの登録や応募など、自分から動いている人たちです。そのため、顕在層向けの設計は、見つけてもらうことと、他の求人と見比べられたときに判断材料が足りない状態にしないことの2つが軸になります。
参考として、厚生労働省の令和7(2025)年「雇用動向調査」(2026年8月31日公表)では、転職入職者の賃金が前職と比べて「増加」した割合は40.8%(前年より0.3ポイント上昇)、「減少」した割合は31.0%(前年より1.6ポイント上昇)でした。転職の結果は、賃金が上がった人も下がった人もいて、人によって分かれています。この調査は、5人以上の常用労働者を雇用する事業所から抽出した事業所を対象にしたものです。候補者が何を比べて応募先を選んでいるかを調べた結果ではありません。
この記事の提案として、求人には賃金のほかに、仕事内容、任せる範囲、働き方の条件など、見比べるための材料を具体的に書いておきます。顕在層向けで先に見る指標は、応募数と、応募のうち書類選考を通る割合です。応募が増えても書類通過率が低い場合は、求人の書き方が採りたい人像とずれていないかを点検します。
潜在層向けは「すぐに選考へ誘導しない」ことが前提
潜在層は、今は活動していません。そのため、応募を前提にしたやり取りだけでは、関係が続きにくくなります。
人材サービス会社の解説サイトは、潜在層の採用を成功させるポイントとして、次の3つを挙げています。
- すぐに選考へ誘導しない。
- 候補者ごとに個別に対応する。
- 連絡の頻度を適切に保つ。
Sansanの調査では、転職潜在層321名のうち、スカウトに前向きな人は合計89.4%でした。内訳は、「内容が魅力的であれば、話を聞いた上で転職も検討する/まずは話を聞いてみたい」が73.5%、「どんな内容であれ、一度は話を聞いてみたい」が15.9%です。「どんな内容でも受け取りたくない」は1.6%でした。
この89.4%は、スカウトを受けたら話を聞く意向を持つ人の割合で、応募した割合や実際に転職した割合を示す数字ではありません。また、最も多い回答でも「内容が魅力的であれば」という条件が付いています。スカウトの文面は、定型の挨拶ではなく、その人に声をかける理由と、話を聞くメリットが伝わる内容にする必要があります。
なお、同じ調査で、求人広告、人材紹介会社、ダイレクトリクルーティングサービスのいずれかを利用している採用担当者のうち、求める候補者に「十分に出会えている」と答えたのは13.5%にとどまりました。ただし、調査対象は自社でAIを活用している企業に限られます。
潜在層との接点を長く保つ手段として、この2つの解説サイトは、SNSやオウンドメディアでの発信を挙げています。人材サービス会社の解説サイトは、これに加えてタレントプールとメールマガジンによる定期的な情報提供も挙げています。潜在層向けでは、応募数ではなく、返信があったか、面談に進んだか、連絡が続いているかを先に見ます。候補者の情報をためて再び連絡する運用は、タレントプールの運用設計で扱っています。
応募を増やすだけでなく、選考までのつながりで設計する

質問紙調査による関連の分析で、特定のチャネルが効くことを示したものではありません。
母集団形成は、応募数を増やす活動と見られがちです。しかし、学術研究では、応募者の数だけでなく、採用の各段階のつながりが成果に関わると示唆されています。
東京都立大学大学院の千葉純平氏が、日本労務学会誌25巻1号(2024年)に発表した研究は、中途採用担当者321名への質問紙調査で、要員計画、募集、選考という施策の組み合わせが、採用人数、採用期間、採用の質に与える影響を調べています。結果は次のとおりです。
- 選考は、採用期間に有意な正の影響を与えた(採用期間の評価の方向や尺度は、この記事では確認できていません)。
- 要員計画、選考、および要員計画・募集・選考の交互作用(組み合わせの効果)は、採用の質に有意な正の影響を与えた(採用の質の尺度は、この記事では確認できていません)。
- 採用人数には、有意な影響を持つ変数は見られなかった。
この研究は、潜在層と顕在層の区別を調べたものではありません。また、質問紙調査による関連の分析で、特定のチャネルが効くことを示してはいません。ここから言えるのは、募集(母集団形成)だけを切り出して最適化するのではなく、どんな人が何人必要かという計画と、選考の進め方とあわせて考えるほうが、採用の質には関わっていた、という範囲です。
実務では、チャネルを足す前に、次の2点を確認します。
- 採りたい人の条件が、選考で見る基準と同じ言葉で書かれているか。
- 応募や返信のあとの連絡と面接の流れが、層ごとに用意されているか。
条件から、優先する手段と最初に見る指標を選ぶ

確認の順序を図にしたものです。自社の状況に当てはめて使ってください。
優先する手段は、次の順に条件を確認して絞ります。①採用までに必要な時期、②その期間に使える工数、③候補者との既存の接点。次の表は、この記事の提案で、効果が実証された組み合わせではありません。
| 自社の条件 | 優先する層と手段 | 最初に見る指標 |
|---|---|---|
| 欠員の補充などで、採用までの期間に余裕がない | 顕在層。求人広告、人材紹介 | 応募数、書類通過率 |
| 期間に余裕があり、採りたい人が転職サイトを見ていないと見込まれる | 潜在層。スカウト、リファラル採用 | 返信数、面談の実施数 |
| 担当者の工数が少ない | 手段を絞る。顕在層向けを1つ、潜在層向けを1つ | 手段ごとの応募数と返信数 |
| 候補者との既存の接点(過去の応募者、社員の知人など)がある | 潜在層。タレントプール、リファラル採用 | 連絡が続いている人数、面談の実施数 |
表の条件は、1つに当てはまるとは限りません。複数に当てはまる場合は、①の必要な時期を先に確認し、その期間で続けられる工数と既存の接点から、実際に運用できる手段を選びます。採用マーケティング(候補者との接点づくりから応募につなげる採用活動の考え方)全体の中での位置づけは、母集団形成の手段の見取り図で整理しています。
自社の組み合わせを決める7項目
層ごとの手段は多いため、すべてを同時に始める必要はありません。次の7項目を順に決めると、組み合わせを絞れます。
- 採りたい人の条件:職種、経験、人数、いつまでに必要かを決める。
- 想定する層:その人が、今の求人を探している顕在層に多いのか、潜在層に多いのかを仮に置く。
- 待てる期間:必要な時期までに余裕がなければ、顕在層向けを中心にする。余裕があれば、潜在層との接点づくりを足す。
- 使える工数:スカウトの作成、発信の継続、個別の連絡は、担当者の時間がかかる。続けられる量に合わせる。
- 判断材料の整備:求人とスカウトに、仕事内容、任せる範囲、条件を具体的に書く。
- 見る指標:顕在層は応募数と書類通過率、潜在層は返信数と面談の実施数を、層ごとに分けて見る。
- 見直しの時期:チャネルごとに、いつ手段を変えるかを事前に決める。
どの手段から始めるかは、この7項目の答えで変わります。必要な時期が近く、すぐに人数を確保したい場合は、顕在層向けの求人広告や人材紹介が中心になります。時間に余裕があり、採りたい人が転職サイトにあまり登録していないと見込まれる場合は、ダイレクトリクルーティングやリファラル採用で潜在層への接点を作ります。社員紹介の制度の作り方は、リファラル採用の制度設計と報酬・社内告知で扱っています。
この記事から判断できる範囲
この記事は、公的統計2件(労働力調査2025年平均、雇用動向調査令和7年)、民間企業の調査1件、学術論文1件、公開されている解説記事をもとにした整理です。次の点には注意してください。
- 層ごとの手段の割り当ては、解説記事の説明をもとにしたもので、手段ごとの費用や採用の成果を比べたデータは確認できていません。
- Sansanの調査は、自社でAIを活用している企業に勤める人と採用担当者が対象で、調査期間は3日間です。日本の就業者全体の割合を示す数字ではありません。
- 参照した解説記事は、人材サービスなどの企業が自社の媒体で公開したものです。
- 労働力調査の転職等希望者の人数は、潜在層の人数を示すものではありません。
まとめ
中途採用の母集団形成は、顕在層には見つけてもらう手段を、潜在層には接点を作る手段を割り当てて設計します。
チャネルを増やす前に、採りたい人の条件、必要な時期、使える工数、選考の流れを決めてください。
参考文献・データ元
この記事で参照した情報を確認できます。
- 総務省統計局「統計メールニュース No.1836」労働力調査(詳細集計)2025年平均 https://www.stat.go.jp/info/mail/pdf/20260213_no1836.pdf
- 厚生労働省「令和7(2025)年『雇用動向調査』の調査結果を公表します」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/26-2/dl/siryo.pdf
- Sansan株式会社「AI時代の転職・キャリアに関する実態調査」 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000827.000049627.html
- 千葉純平「中途採用施策の水平適合が採用成果に及ぼす影響―多様な採用成果に着目して―」『日本労務学会誌』25巻1号(2024年) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshrm/25/1/25_26/_article/-char/ja
- Wantedly Hiringeek「転職潜在層とは?効果的なアプローチと採用成功のポイント」(確認日 2026年11月3日) https://www.wantedly.com/hiringeek/recruit/passive_candidates/
- Works Review「転職潜在層とは?顕在層との違いや効果的なアプローチ方法を解説」 https://worksreview.worksjapan.co.jp/recruitment-activity/20260119
‹ 親記事: 採用マーケティングとは何か。母集団形成の手段の見取り図と、自社に合った選び方の考え方




